平成28年熊本地震の被害が大きい中で家のあり方を考えてみたいと思います。私たちは家の敷地を選ぶのに、駅や学校、職場までの距離、暮らしやすさなどで選びますが、地震は地面のもっと下にあるプレート、断層といったものが大きく関わり、地震を引き起こします。
多額のお金を払って建てた住宅や購入した住宅も、大地を揺らす地震の前ではなすすべなく、あるときは一瞬にして倒壊し、あるときは住み続けることができないほど傾いてしまうことがあります。
地震が発生した瞬間に自分自身、家族、親戚、友人、近隣の方々・・・全員が最小限の怪我で生きていること。それが家の役割です。
命を守るための耐震基準
家を建てるためには国が定めた「建築基準法」という法律があります。建築基準法の第一条の条文は下記のように書かれています。
第一条 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低限の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
簡単に要約すると「人の命や健康、財産を守るために、建物の敷地や構造、設備などの基準を定める」としています。家は日常生活の中で人の命や健康、財産を守る場所であり、これは地震時にも適用されます。
条文の中で注意したい点は「人の命や健康、財産を守るために家が存在している」ということです。建築基準法で定める家の定義は、地震により家が壊れないことではなく、人の命や健康、財産を守るためということになります。建築基準法では地震により家が壊れることは想定内ということです。
家に財産価値を求めない
1950年に制定された建築基準法は日本国内で地震が起こる度に改訂され、耐震性をアップさせてきました。住宅で大きい改訂は阪神淡路大震災で木造住宅が大きな被害を受けたことで、2006年以降に建てられた住宅には厳しい基準が課せられています。
それでも家は壊れるときには壊れます。家の価値が高い・安いに関係なく、価格が高い家であっても壊れるときは壊れ、安い胃であっても耐えるときには耐えます。耐震性能を上げるために多種多様な対策を施した家は、耐えられる可能性が他の家に比べ少し高いかもしれないということは言えます。
家に財産価値を求めてはいけません。
震度6や震度7を何度も経験した家は、見た目上は問題なくても、基礎や土台、壁や柱、梁は被害を受けていることも少なくありません。地震に遭い無傷ということはあり得ないのです。
車に置き換えれば分かりやすく、時速60kmで事故を起こした車が無傷で財産価値が100%あるということはありません。傷つき補修を行い、元に近い状態まで直るかもしれませんが、価値は落ちます。
家も同じであり、大地震で受けた傷は残り、家の財産価値も落ちます。同じ建物で大地震を受けた家と受けていない家が同じ金額で販売されていたら、どちらの家を購入しますか?
家は財産ではなく、人の命や健康、財産を守るためのシェルターと考えることが必要と思います。
流行に乗って住宅を消耗品としないことも大切
衣類やアクセサリーなどのファッションは毎年新しいものが提案され続けていますし、車も数年おきに流行のデザインがあり、どこのメーカーも細部に流行の加工を施しています。
どちらも消費者の購買意欲をそそるようにPRしてくるので、どんなに古いデザインの方が好きであっても「やっぱり新しいデザインがいいな」って思ってきてしまいますよね。
ファッションや車とは違いますが、住宅にも流行というものがあります。
住宅の流行は少しだけ違うかもしれません。住宅は人生の中で毎年買い換えるようなことはありませんので、購買意欲をそそるような広告はありますが、広告によって業界全体の売り上げ収支が大きく動くことは少ないです。また、基本的に日本の住宅は日本国内のみでしか通用しないため、市場が小さく固定化されているところに、大きな変化が起こりにくいとも言えます。
その中でも、住宅の流行を生み出す要素は何個かあります。
住宅の流行を生み出す国や企業
住宅の流行を生み出すところは、国、企業、業界です。
国が動かすものは法律です。建築基準法を変更したり、省エネルギー法を制定したりと、各種の法律を変えることで流行が生まれます。例えば、国が耐震性能を向上させることを目的に法律を変えれば、大きな窓をつくることができなくなり、小さな窓のデザインが流行ります。省エネルギー法を変更すれば、太陽光パネルを設置する家が増えて、屋根の勾配や間取りに流行が生まれます。
企業が動かすものは技術です。新しい技術でいままで表現できなかったサイディングデザインが生まれれば、そのデザインをPRする住宅メーカーが生まれ流行となります。これは同様にフローリング、ビニルクロス、キッチンやトイレなども含みます。
業界が動かすものはデザインです。ファッションのように流行させる素材や色、形などを会議で決めているわけではないため、強制力はほとんどありません。ただ、世間から注目されている建築家が業界全体を納得させるデザインの住宅をつくると、みんなが真似をするという程度です。
主にこのような感じです。これらはハウスメーカーやハウスメーカーになりたいと思っている工務店が採用する例です。独自技術を持った工務店や個性のある設計事務所は当てはまりません。
流行は古くなるとダサくなる問題
流行な形やデザインの住宅を建てて、一番困ることは流行が去ってしまうことです。数年前のファッションを見てダサいと思い、十数年前のファッションを見て笑ってしまうようなことが住宅でも起こります。
当時は流行したサイディングであり、サイディングのデザインを採用したにもかかわらず、未来は全く別のデザインのサイディングが流行しているかもしれませんし、そもそもサイディングという素材自体使用していないかもしれません。
現在は太陽光パネルを屋根の上にのせて発電させることが一般的ですが、未来は太陽光を必要とせず、もっと高効率な発電をするものが一般的になっているかもしれません。太陽光パネルを設置するために考えられた屋根の勾配や天井高などは古いということになります。
では流行に乗らずに古い日本家屋を建てれば良いかと言われれば微妙です。
流行に乗って住宅を建てる場合は、流行が終わってしまうことを知っておくことが大切であり、自分の個性や信念を持って住宅を建てる場合は、貫く勇気が必要になると思っています。